「質」の向上
倫理委員会
「たんなる風邪なのに、患者さんから(本来必要のない)抗生物質を出してほしいと頼まれた」「重症の糖尿病で入院が必要なのに、保険証もなくお金もないため入院を拒否する患者さん」「寝たきりの90歳の女性が食事がとれなくなった。夫はこのまま静かに死なせてやりたいと考えているが、息子は母親に生きていてもらいたいので胃ロウを作ってほしいという」
これらは、私たちの病院で日常ある「倫理的問題」の一例です。医療現場ではさまざまな価値観を持った人と人とがコミュニケーションをとりながら治療方針を決めています。その中で、判断に迷うような場面にしばしば直面します。何が患者さんやその家族にとって最善か、それを考えるのが医療現場における「倫理」なのです。
東京ほくと医療生活協同組合ではこのような倫理的課題に答えるため、倫理委員会が活動を行っています。倫理委員会の構成メンバーは医師、看護師、介護職、事務に加え外部委員として弁護士にも参加してもらっています。
- 倫理委員会の目指すところ
- 患者、家族、医療者それぞれにとって「納得のいく」「最善の」医療を提供するための環境を作ること。
- 倫理委員会の3つの役割
- 1. 上記のような日常的な倫理的問題を相談する場(倫理コンサルテーション)
2. 東京ほくと医療生活協同組合で行われる研究に対する倫理審査
3. 職員や組合員、地域住民に対する倫理的問題の教育活動
倫理コンサルテーションについて
医療現場で判断に迷うような難しい問題に直面した場合、大切なことは「一人で決めない」「一度に決めない」ことです。患者さんとその家族を中心とした医療チーム(医師、看護師、介護職、ソーシャルワーカー、リハビリ療法士など)が話し合いをもち皆で考えることが必要です。
その際、参考になる価値観として、4つの倫理原則というものがあります。
1.自律尊重(患者さん本人の希望を大切にしよう)
2.善行(患者さんにとって最善と思われることをしよう)
3.無危害(患者さんに害を与えてはいけない)
4.公正(医療は誰にでも公平にあたえられるべき)
これらに照らし合わせて行おうとしている決定が正しいかどうか判断するのです。しかし、これらはあまりにも抽象的で難しい印象を与えます。
近年、個別の患者さんから出発して倫理的問題を考えようという「臨床倫理学」をJonsenらが提唱し、日本でも白浜らが広めてきました。これは、患者さんの状況を「臨床倫理の4分割表」に分類し、問題を整理し、様々な角度から問題をとらえ直すものです。
医学的適応 | 患者の病気は何か?、余命はどのくらいか?、治療にはどのようなものがあるか?、治療はどのくらい有効か?、治療に伴うリスクは? |
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患者の意向 | 患者には判断能力があるか?、病気についてどのくらい知らされているか? 患者の希望はどのようなものか?、患者に判断能力がない場合、事前指示書はあるか?代理人はいるか? |
QOL:生命/生活の質 | 現状で患者の生活の質はどうか?、生き甲斐や楽しみはあるか?、延命治療は患者にとって利益があるか?、寝たきりでも日々を楽しんでいるものもいる。(偏りのない価値観で)、緩和ケアは必要か? |
周囲の状況 | 家族や友人はどのように関わり、考えているか?、どんな医療サービス、介護サービスを受けているか? 経済面の問題はあるか?、宗教、法律上の問題はあるか? |
東京ほくと医療生協では日常の話し合い(カンファランス)にこの表を用いています。また、現場で解決しきれない複雑な問題に関してはカンファランスに委員が参加したり、2ヶ月に1回の倫理委員会で話し合って助言を行っています。(倫理コンサルテーション)
研究倫理について
東京ほくと医療生協では、さまざまな研究が積極的に行われています。医学、医療の発展のためには大学病院などでは行えない、地域の病院や生協ならではの研究が必要と考えているからです。
その際、組合員さんや患者さんに協力をお願いすることもあります。インフォームド・コンセントに基づいた自由意志に基づく参加が前提であり、患者さんに多大な負担がないこと、個人情報の扱いが適切なこと、など倫理的に問題がないかを研究が申請された段階でチェックするのが倫理委員会の役割の一つです。
これまでに行われた研究の一例です。
「慢性疾患を持った患者さんのお薬についての悩みと工夫に関する調査」
「外来で毎回体重を測ることが患者さんの療養態度に良い影響を与えるか?」
「外来の椅子の形が患者さんの満足度に影響を与えるか?」
「医師の言葉を患者さんはどの程度理解しているか?」
希望書(事前指示書)
治らない病気になっても、最期まで自分らしく生きたい、自分の希望に添った医療を受けたいと誰でも思うものです。しかし、いわゆる終末期(がんなどの病気による)や植物状態(脳卒中や認知症などにより寝たきりとなり、自発的に体を動かしたり意思疎通ができなくなった状態)の患者さんは、意識が悪いため、自分の希望を周囲に伝えることができません。いよいよというとき、生命を永らえさせる治療(いわゆる延命治療)を行うかどうか、患者さん本人に聞くことができません。ここでいう延命治療とは、心臓マッサージなどの蘇生治療、人工呼吸器、胃ロウなどの人工栄養をさします。現状では、医師と患者さんの家族が話し合って決めているのですが、生き死に関わる決定をすることはご家族にとっても負担です。「私の医療に関する希望書」(事前指示書)は元気なうちに、終末期に自分の受けたい医療の内容を文書に記しておくものです。これをもとに、医師と家族が話し合い、最期まで本人の希望に添った医療を選択することができるのです。
私の医療に関する希望書(事前指示書)は東京ほくと医療生協の各病院、診療所で配布しています。(このページからもダウンロードできます)記入する際には主治医や看護師と相談し、手助けをしてもらった方がスムーズです。むずかしい医学用語の説明をしてくれ、判断に迷うときは助言をしてくれるでしょう。
また、一人で書いてしまい込むのではなく、必ずご家族や友人に見せて意見を聞いたり、コピーを手渡しておきましょう。結婚記念日に夫婦で書いたり、お正月に皆が集まった際に思い切って意見を聞くなど家族で共有することが大切です。完成したらコピーを一部主治医にも渡しておき、カルテに保存してもらいましょう。
倫理委員会では希望があれば、班会に職員が出向いて事前指示書についての説明や書き方をお伝えしています。
私の医療に関する希望書(事前指示書簡易版)[PDF:84.5KB]
アドバンスケアプランニング
人生の最終段階における医療・ケアの自己決定支援ガイドライン[PDF:311KB]