誰もが安心して住み続けられるまちづくり

みんなで学ぼうSDGs

2022/03/30 東京ほくと
産業と技術革新の基盤をつくろう

北海学園大学経済学部経済学科教授 上園 昌武



東京ほくとは、昨年度からSDGsのとりくみを事業所と地域で進めていく方針を打ち出しています。毎号1項目ずつSDGsの17のゴールについて学び、自分たちができることを共に考えていきましょう。

世界は気候危機に直面している。最新の研究によると、昨今の気象災害の頻発は、地球温暖化の進行が強く関わっているという。
1・5度の気温上昇に抑制するためには、2030年までにCO2排出量を60%以上削減する必要がある。そのため、エネルギー消費量の削減と再生可能エネルギーへの転換によって、脱炭素社会を早急に構築することが求められている。
さて、皆さんにとって「気候変動対策は生活の質にどのような影響を与える」と考えるだろうか。2015年の世界79か国、1万人を対象とした意識調査によると、世界の人々の66%が「生活の質を高める」と答えたのに対し、日本人の60%が「生活の質を脅かす」と回答した。 では、なぜ日本人は気候変動対策に否定的な意見を持つのだろうか。その要因として「我慢の省エネ」が強く影響していると推察される。省エネ行動と聞くと、冷暖房の設定を高く低く設定することを思い浮かべるだろう。これを実践すると、夏に暑く、冬に寒く過ごすことになり、不快で苦痛を伴うので「生活の質を脅かす」ことになる。
それに対して建築物の断熱対策は、居住空間を冬に温かく夏に涼しくするので、快適で「生活の質を高める」ことになる。欧州では、断熱対策は冷暖房のエネルギー消費量とCO2排出量を減らすので、主要な気候変動対策と位置づけられている。機密性が高い断熱材や三重窓はすでに商業化された技術であり、新改築の標準設備となっている。
またドイツでは、国の助成金が呼び水となって、毎年数兆円規模の省エネリフォーム市場が生まれ、30万人の雇用が創出されたという。さらに、公営団地を省エネリフォームすることで、低所得者の光熱費を削減する福祉対策にもつなげられている。こうした省エネリフォームは、CO2排出削減、経済効果、福祉を統合した「生活の質を高める」とりくみである。
日本では、気候変動対策が経済効果をもたらすことにようやく着目されるようになったが、「生活の質を高める」という視点が抜けているようにみえる。東京には、多くの公営住宅や賃貸住宅がある。ドイツのような省エネリフォーム政策が、賃貸住宅に住む社会的な弱者の生活水準を引き上げるとともに、住宅・建築産業の活況を導くはずである。脱炭素社会の構築は、様々な社会経済課題を同時に解決するチャンスと捉えるべきである。
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