緩和ケアだより
王子生協病院
緩和ケア病棟担当
医師 石河 絢子
いっしょに過ごした日々が遺された人の生きる力になる
私は、患者さんとこれからの治療や過ごし方を相談する際、その患者さんが何を大切にされているか、どのような時に幸せを感じるかを伺うようにしています。そして、それが継続できることを目標に、必要なケアを一緒に話し合います。そこには大切な人、大切なものの存在があり、一緒に過ごす時間はその大切な人たちにも大きなものを遺してくれると感じています。
祖父が遺した「握手」の力強さ
私は困った時、つらい時に亡くなった祖父のことを思い出します。祖父は私が高校1年の時に白血病で他界しました。65歳でした。私の両親には診断時に余命3、4か月と告げられたそうです。私がそれを知ったのは祖父が亡くなる数日前です。母から会いに来るように言われ、本当に軽い気持ちで行った大学病院のロビーで病名と遺された時間がわずかであることを聞かされました。病室に入ると高熱と下痢で消耗した祖父がベッドに寝ていました。言葉を発することはできませんでしたが、私に気づき私の手を握り頷いていました。あと数日で亡くなる人の力とは思えないほど強い力でした。 祖父は、病名は知っていてもあと7、8年は生きられると思っていたようで、それが難しいと分かった時どんな気持だったでしょう。現役で仕事をし、家長としての役割もあり、気がかりなことばかりだったと思います。その中で私に遺してくれたものが、あの握手だったと祖父からのエールのように感じるようになりました。そう感じるようになったのは、緩和ケアに携わるようになってからです。あの手の感触を思い出し深呼吸をすると、「よし、頑張るか」という気持になれます。
遺された大切な日々
大切な方に手紙や日記などを遺される患者さんもいらっしゃいますが、すぐには気がつかなくても一緒に過ごした患者さんの姿、会話から励まされ、その後を生きる力をもらえることがあると信じています。